発表者: 医療法人志仁会 西脇病院 宇土 けい
令和4年6月9日の「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の報告書で「精神障害を有する方」と「精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方」と明記され、今までの統合失調症中心だった精神保健医療福祉が、先の二つの「~方」が対象になると報告されました。
当院が開設した昭和32年、初診患者疾病分類は統合失調(精神障害を有する方)が半分を占めていました。しかし、令和4年の初診患者疾病分類では、統合失調症は一番少なくなり、気分障害、不安障害、依存症等の精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方が多くを占めています。これは当院だけではなく、他の医療機関でも同様で、特別講演の一本松すずかけ病院の中川先生も話されていました。
相談があった際“問題を起こしている方”を「当事者」と見がちですが“問題を抱えている方”を「当事者」として見る必要があります。
“問題を起こしている方”を見ていると、家族や援助者は“問題を起こしている方をどうにかしよう”と躍起になりがちです。しかし一方“問題を抱えている方”に目を向けることで状況整理が出来、「今何が起きて、誰が困っているのか」が見えてきます。実は「精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方」は家族等の援助する側に多いのに気付きます。
当院のアディクションリハビリテーションプログラム(ARP)の一つである「女性の集い」について、第44回九州集団療法研究会で発表させて頂きました。当時、参加者は嗜癖問題が約7割を占めていましたが、令和4年度、嗜癖問題は4割まで減り、気分障害等の参加者や家族の参加者が増えました。病名・症状・立場は異なっても、「生きづらさ」が共通しているので、「女性の集い」は疾病構造の変化にも柔軟に対応することが出来、現在、当院で一番勢いのある活動と言われています。
当院では精神保健福祉士が受診相談を対応しており、その対応には①緊急性のある入院②早期介入が必要③手間暇をかける、の3パターンがあります。緊急性のある入院は「精神症状の為に判断能力が著しく減弱していて、正常な判断が出来ず、本人や周囲が不利益を被る場合」です。それ以外の場合には、早期介入が必要か、手間暇をかけるか、相談者から詳しく情報を得る必要があります。例えば、リストカットをして外科的処置が必要な場合は、外科。大量服薬をして胃洗浄等の内科的処置が必要ならば、内科。このように、トリアージ(選別)を重視することは大事です。
これらの対応を可能にしているのが、当院の電子カルテシステムです。当院ではその電子カルテ上に相談記録を組み込んでおり、緊急性のある入院の場合には、相談記録をカルテに貼り付けることで、速やかな診察・入院が可能となります。
冒頭で述べた通り、当院では“問題を抱えている方”に目を向けているので“問題を起こしている方”が受診を拒否しても、そこで終了することはありません。まずそこで“問題を抱えている方”を相談に繋げます。それは「女性の集い」等の治療プログラムに参加することです。そこに参加することで、自らの「生きづらさ」に気づくことが出来ます。
そんな受診相談に対して「どこまでが無料なのか」という質問もありましたが、当院では受診に繋がるまでは無料です。無料だからこそ“問題を起こしている方”も精神科に足を運びやすく、実際に病院見学に繋げることで、病院(精神科)への抵抗がなくなり、受診を拒否していた方も繋げることが出来るのです。
手間暇かけて関わることで「周りに言われて受診した」ではなく「自分で受診を決めた」に変えることが出来ます。自分で自分のコトを選択する・・・それは回復への一歩だと思います。
関わる上で「出来るコト」「出来ないコト」「してはならないコト」「しなければならないコト」を考えることを大事にしています。それは、『当事者の望むままに関わることは当事者の為にはならない。手間暇かけることこそ、当事者と家族の為になる』・・・と、手間暇かけた受診相談と「女性の集い」で実感しているからです。
最後になりますが、司会の窪田様、コメンテーターの丸岡先生、フロアの方々、そして関係者の方々に感謝申し上げます。