発表者: 医療法人志仁会 西脇病院 柿田 雄希(PSW)
今回、九州集団療法研究会において、当院のアディクション治療の成り立ちや当事者団体との関わり、私が当事者団体との関わりの中で学んだことを発表させていただきました。
当院は昭和32年に開設し、その後夜間集会(入院患者、外来患者、当事者団体・家族が体験談を語り合う集団療法)を始まりとして、断酒会などの当事者団体に施設の一部をミーティング会場として提供しながら40年以上アディクション治療に取り組んでいます。
四大疾病に精神疾患が加わり、精神疾患が増加しています。 しかし一方で、 精神科救急は供給過多となり非自発的入院増加が問題となっています。精神科救急の本来の対象は統合失調症などの幻覚妄想が対象であり、少子高齢化の今日で統合失調症の絶対数は減少しているにも関わらず、何故か非自発的入院は増加しているのです。それは、どうも本来は非自発的入院の対象外であるはずのアディクションや認知症等が取り込まれていると考えられます。精神保健福祉法によると、入院形態の基本は任意入院であり、アディクションや気分障害の「否認」にいかに治療的に介入し、リハビリテーションに繋げていくかが重要です。 (ここでいう「否認」とは自身の病気を受け入れられない・認めたくない状態であり、病識欠如とは異なります。)
その為、精神科リハビリテーションを有効的に行っていくためには、精神科病院を中心に従来通りに相談・外来・入院を行いつつ、アディクション患者には当事者団体を紹介することや患者と関わる中で保健所・警察等の行政機関へ振り分けるといったその患者の経過に合わせた適切な対応が求められます。そこで、精神科病院を重要な社会資源として位置付ける必要があると思います。当院はそのような精神科医療の現状を踏まえて、ストレスケア病棟を中心に急性期病棟(出来高)、リハビリテーション病棟、療養病棟の4病棟でそれぞれの機能に合わせ治療プログラム整備しています。
そんな当院に就職した私はアディクションを対象とした集団療法の治療プログラムやアディクションデイケアを任せられ、様々なアディクション患者と関わる中、病院側から当事者団体と関わるように指示され、フォーラムに参加するようになりました。当事者団体と関わる中で長崎DARC (依存症回復施設)とも関わるように病院より指示があり、長崎DARCが新規で立ち上げるグラフながさき (ギャンブル依存症回復施設)の立ち上げにも立ち会わせていただきました。また、このグラフながさきとの関係により事例紹介のY氏との出会いにも繋がります。
これらの当事者団体との関わりの中では、アディクション患者は依存という問題だけでなく、 多くの人が対人関係や自身の言動、今後の仕事や生活にも不安 (生きづらさ)を抱えていることを学びました。依存対象を止め続けるだけなく、シラフでこれらの生きづらさと向かい合う必要がある為、「回復」とは単に依存対象を止め続けるだけで完結せず、それよりも対人関係等の訓練や病院以外での居場所作り等が重要だと感じました。
また、当事者団体との繋がりで出会ったY氏との関係においては、危機回避目的で入院し、今後の支援検討から始まり、施設入所までの待機時間の中でY氏のモチベーションを維持する為に多くの面接や同伴外出を行いました。結果としては当初嫌がっていたY氏も「入院して良かった」と話すようになりましたが、一方で職員に多少依存的になってしまった面もあり、Y氏との関わりによって患者との距離間や関係性について学ぶ機会となりました。
当日の発表では、コメンテーターの帆秋先生からは「患者と当事者団体との架け橋に今後ケースワーカーの存在が大切」とコメントを頂き、患者本人の「居場所作り」という点に再度注目しながら今後関わっていきたいと思いました。また、司会の古賀さんからは「アディクションへの先入観偏見がなく、良好な関係が結べているのは西脇病院と当事者団体とのこれまでの関わりの経過があるからですね」とコメント頂き、自分がアディクション患者から様々な学びを得ることができる恵まれた環境に身を置いていることを再確認することができました。
最後になりましたが、発表にあたりフォローやアドバイスを頂きましたコメンテーターの帆秋先生、司会の古賀さん、フロアの皆様ありがとうございました。