発表者: 医療法人志仁会 西脇病院 佐藤 清美(OTR)
私は西脇病院に就職する前の教員時代、規則や役割など枠組みを守ることに注力し、専門書やマニュアルに頼っていました。そして、多くの課題を抱えながら周囲に弱さを見せることも本音で話すこともできていませんでした。教員になる数か月前に見学した夜間集会で参加者が体験談を赤裸々に話し、かつ周囲は静かに聞いているのを目の当たりにし“私が求めている答えはここにある”と感じていました。そして入職。夜間集会やそこから派生したミーティングで体験談を聞き続けて7年。多くの気づきを得ました。
その気づきとは、既に疾病構造や社会情勢は変化しているにも関わらず、私はその変化についていくことができていなかったこと。統合失調症中心のリハビリテーションモデルから抜け出せず、「社会的人間としての病気」に対応するカが身についていなかったこと。
回復のペ一スやタイミングは人それぞれであり、支援する人も本人も周囲から求められる役割を重視し過ぎると、必要な時に必要な支援を授受することが難しくなるということ。支援者は無力を自覚し、横の繋がりを持てるように余計なことは何もしないで関心を持って見守る姿勢が大切だということなどです。
今回、上記(本院に就職した私自身の変化、私に変化を起こした本院に根付いたミーティング文化)について報告しました。神谷先生の優渥な進行のもと、坂口先生やフロアの方々と意見交換をすることができ充実した時間となりました。そして、精神科救急・急性期医療、救急以外の精神科医療、精神科作業療法の在り方について再考する機会を得ました。現在、精神医療は国が求める精神科救急・急性期医療と現実との解離に直面し、特に精神科救急に特化した施設では国の方針に応えるべく、医療構造や機能の見直しを余儀なくされている印象があります。当然、精神科救急・急性期だけでは精神障害者を包括的に支援することはできず、療養や地域における支援の在り方も問われます。感染症モデルや生活習慣モデルから抜け出せない施設は医療構造や機能の転換に苦慮することになるかもしれません。精神科作業療法も統合失調症モデルだけでは多様な病態と回復段階に対応できないため、以前の私のように専門書や研修会で得たマニュアルに頼っていては必要な時に必要な支援を行えないことは明らかです。
意見交換の中で「したくない患者にさせるにはどうする?」「これからは2~3週間で退院させないといけない」といった質問・意見がありました。その時私は“何故本人が納得していないことをさせなければいけないのか”“何故個々のタイミングではなく、環境要因の制約に本人を合わせなければならないのか”と思いました。私がこのような疑問を持つことができたのは、任意契約の風土作りを早くより行ってきた本院に就職できだからだと思います。治療契約を取り付ける過程において精神科医、その他職員は患者との向き合い方が重要になります。そして本人がセルフバインディングを出来るようにサポートに努めています。患者本人もしたくないことを誰かに求められたからするのではなく、納得した上でそれぞれのセルフバインディングが可能になれば、その先の新たな生き方に慣れるはずです。でも、それは手間ひまがかかります。ですから本院では期限が来たからではなく、それぞれのタイミング、回復段階を重視します。そして、職員は関心を持って何もしないで見守るといったいささか厄介な姿勢を持つことが大切です。だから、非自発的入院かつ治療に期限がある場合はこのような関わりをするには制約が多すぎると考えられます。
私は、これからも本院におけるピアサポートモデルを実践し、腰を据えて臨むが、熱心になり過ぎない(巻き込まれない)といった心構えを持ち、「生命」に関わる、「生活」を支える、「人生」を見守るといった理念の下、ぶれない実践を継続していきたいと改めて思いました。