発表者: 医療法人志仁会 西脇病院 辻田 悠司(MHSW)
本研究会において、当院の回復支援プログラムヘ長きにわたり参加している”高度成長を支えた古老3人の回復者”に焦点を当て、彼らの回復が実は多くの患者の回復に繋がっており、スタッフも様々な学びを得ていること、アディクショングループだけではなく、リワークプログラム(復職支援プログラム)や、SRP(統合失調症・リハビリテーション・プログラム)の回復過程にも有用であることを発表させていただいた。
西脇病院は、精神科疾病構造が変化していく中、昭和32年の開院当初より、統合失調症中心の医療から脱却するための機能分化を図り、40年以上続く『夜間集会(入院患者を中心に外来OB、自助グループ、家族、スタッフが一同に集い、自己洞察を図る集団療法)』を原点に、様々なプログラムヘと拡充し、地域の自助グループとも同盟関係を結んできた。
私自身も体験談等から様々な学びを得る中で、「古老の知識や知恵」が多くの患者の回復へと繋がる“感覚”は持っていた。しかし、戦前戦後の日本がまだ貧しかった時代を生きてきた古老と、現在プログラムを利用する若い世代がどのように繋がっているのか整理ができずにいた。その“感覚”の本質をつかみたい思いから西脇院長先生へ相談。私の「高祖父の時代から引き継がれたファミリーストーリーを振り返ってみるように」と助言を受け、自分でも気付けていなかった生い立ちや育った環境を振り返る。正直、私の住む地元独特の生い立ちを話すことは勇気のいることでもあったが、コメンテーターの堀川先生やフロアの皆様からご質問いただくことで、発表の場、時間でも自分の考えを言語化しながら、身の回りの環境や役割、立ち位置について客観視して捉えることができた。言わずもがな私達の生活には様々なライフイベントがあり、そこに関連する出来事や人間関係などから、大なり小なり誰もが「ストレスや負荷」を抱えている。そこで見えてきた古老と、若い世代に共通していたことは、「時間に縛られ、煩わしい人間関係に悩みがある」ことだった。
これはLAI治療等が普及してきた統合失調症の社会参画にも同様の傾向がみられる。それを「気晴らし」できないことが問題であり、抱え込まないために有効となるのが“集団”の存在である。私達には、身の回りに様々な“集団”があり、良いこともつらいことも、生きづらさも含めて分かち合える場がある。“集団”という場が、ひとり抱え込まずに支えとなってきたことも再確認した。堀川先生からお語いただいた「まず、集団の力を信じる」という言葉ともつながり、まさにこの発表自体が集団の中に身を置き、体験談を語ることを体感した貴重な体験となった。
本研究会を通して、増加傾向にあるうつ病やストレス関連疾患、そして多様化・複雑化するアディクションの問題への対応の必要性と、そこには「場」の提供が必須であることを改めて考えた。しかし、私達が勧める様々な「場」が、その人にとっての“居場所”になり得るかどうかはわからない。社会的人間としての病気のきっかけ、治療・回復のきっかけは様々であり、“居場所”も様々である。そのため、精神保健福祉士の役割のひとつとして、様々な当事者団体や家族を含む関係者との“橋渡し”が重要と考える。そんな様々な“橋渡し”の「場」である地域の社会資源の把握にも努める必要があることも発表の中で改めて認識できた。さらにここで注意しておきたいのは、生き方を考えるのは本人ということである。誰かが説得できるものではなく、自分で納得するものである。夜間集会と断酒会から始まった、当院の回復支援プログラムの在り方が、時代とともに様々なかたちでプログラムを「更新、追加、変更」してきたことの重要性を考える機会ともなった。
最後に、コメンテーターの堀川先生を始め、司会を担当していただきました雁の巣病院の神谷様、第3分科会にご参加いただいた皆様に感謝申し上げます。