発表者: 医療法人志仁会 西脇病院 島田 治子(薬剤師)
西脇病院は1957年に開設しました。1975年より依存症治療を開始し、夜間集会(入院患者・外来患者・当事者団体・家族が体験談を語り合う集団療法)を始まりとして、40年以上アディクション治療に取り組み、ここから当院の治療プログラムは拡大していきました。
一方、薬剤師は2名しかおらず、調剤に追われる日々でした。
2016年1月より外来処方が院外処方に変わったのを機に、薬剤師の仕事が大きく変わりました。従来の調剤や薬剤管理指導業務に加え、各種プログラムヘの参加、訪問業務など薬局外の業務に対応するようになりました。
ある日、西脇院長先生から長崎DARCへ通うようにと指示がありました。処方薬依存を知る・当事者の話を聞く事を目的に、精神保健福祉士に同行して月に2回通うことになりました。長崎DARCではミーティングに参加し、12ステップなど回復の方法を体験しました。長崎DARCのカフェのような素敵な内装に驚き、美味しいコーヒーを味わい、おしゃれで気配りのできる当事者の方と接するうちに、①依存症者は良くも悪くも高機能であること ②依存対象を止めることを教えるわけではなく、シラフでの生き方を学ぶこと ③処方薬依存や市販薬依存の方が多くいること、これらの薬は薬剤師が手渡すものであること④うつ病や双極性障害など重複疾患を持つ依存症者の気分を安定させるため・睡眠を確保するために処方薬を正しく使うと有用であること、処方薬による治療は病院でなければできないことに気付きました。
私は長崎DARCに通う中で、母として、娘として、妻として、姉として、女性社会人として、女性である自分の悩みに向き合うようになりました。そこで女性の話を聞きたいと思い、昨年の九州集団療法研究会で発表した当院で行われている「女性の集い」にも参加しましたスタッフ・メンバー共に女性のみで、当事者だけでなく共依存の家族も参加していました。しかし、不思議なことに批判や嫌味がない事に驚きました。女性特有の悩みは女性同士の方が話しやすく、人のことばかり話していた人が自分の言葉で話せるようになることの大切さを知りました。ここで語られている女性たちと私の悩みは同じでした。私は長崎DARCや女性の集いなど当事者の集う場に足を運び、見る・聞く・感じる事で薬の事以外では無力であることに気付きました。
精神疾患が増加し、疾病構造も大きく様変わりし、精神科は統合失調症だけを診るわけにはいかなくなりました。統合失調症の再発を防ぐ薬物療法が重要です。
再発抑止効果が高い薬剤として持効性注射剤(LAI)が知られており、当院ではLAIを多くの方に使用しています。LAIを使用することで、再発を予防し、対人交流が豊かになり、1日のリズムも整い、規則正しい生活を送ることが可能になり、社会参画が容易になりました。しかしその一方で、社会参画した統合失調症当事者は煩わしい人間関係に悩み、時間に追われ、現実に直面化します。今回LAIを用い寛解状態が続き、その後現実と直面化した症例を提示しました。あの方が女性の集いに参加し自分の胸の内を話せていたら、また統合失調症患者当事者のピアサポートがあったならどうなっていたのかと思い、統合失調症当事者のリカバリーのその先を見据えた介入として、生きる知恵を学ぶピアサポートなどの心理社会的アプローチの必要性を感じました。
これまで薬剤師は技術者でした。薬局外業務への不安から薬局内にひきこもることで孤立していきました。これからの薬剤師も調剤が基本であることは変わりません。しかし薬剤師も社会資源の1つです。安心安全な薬物療法に寄与できるよう、薬局外にも目を向けることが必要です。調剤の機械化や電子カルテの活用により薬局内業務の効率化を図り、ミーティングに参加し、より質の良い多職種連携を行い、視野を広げていくことが大切だと気付きました。
今回薬剤師の発表に興味がある人がいるのだろうか?と不安でしたが、多くの方に参加頂き、その中に薬剤師がいた事を嬉しく思いました。コメンテーターの堀川先生には、薬剤師がDARCや訪問など院外に出て受け入れられている事について評価を頂き、また女性としての思いを話せるよう導いて頂きました。また司会の小柳さんの進行で、フロアとの活発なやり取りができました。この分科会に参加していた皆様のおかげで、自分が視野を広げられる環境に身を置いていることを再確認できました。最後になりましたが、コメンテーターの堀川先生、司会の小柳様、フロアの皆様、そして関係者の皆様に感謝申し上げます。